愛知県北部、五条川の桜やのどかな田園風景が広がり、同時に多くの企業が集まる丹羽郡大口町。 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)によると、大口町には849の事業所が存在します。この地域で、近隣の工場やオフィスで働く人々、そして地域に暮らすご家族においしい食事を提供し、日々の仕込みや接客、シフト調整、日々の資金繰りに追われている飲食店の経営者の皆様は、本当に休む間もない毎日を送られていることでしょう。
私は、隣接する春日井市で6年間カーリース店を経営し、現在は大口町を含む一宮からおよそ20km圏の29市町村の店舗へ直接足を運び、AI導入の伴走支援を行っている経営者です。同じ地域で店舗を運営し、同じように悩み抜いてきた経営者の目線から、今回は「AIという未知の道具と、どう向き合い、何から手をつけるべきか」についてお話しします。
世間では「AIの時代」と騒がれていますが、実際の普及はどうでしょうか。 中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%にとどまります。その内訳は、全社的な導入が3.6%、一部業務での導入が16.8%です。一方で、「導入予定はない」と答えた企業は61.0%にのぼります。
なぜ、これほど多くの経営者が導入をためらうのでしょうか。同調査で、導入に踏み切れない理由として「現状で満足しており必要性を感じない」と回答した割合は、導入予定なし層で27.7%、検討中層で4.0%を占めています。今のお店の営業がしっかりと成り立っているからこそ、わざわざ未知の技術を取り入れる必要性を感じないのは、極めて自然な経営判断です。
また、総務省「令和7年版 情報通信白書」の図表I-1-2-15(日本 n=515)によると、「効果的な活用方法がわからない」と答えた割合は、日本が30.1%であるのに対し、米国は9.7%にとどまっています。このデータからも、日本の多くの店舗経営者が「自分の店において、具体的に何の作業に使えるのか」というイメージを持てずに立ち止まっている現状がよく分かります。
飲食店におけるAI導入とは
飲食店におけるAI導入とは、経営者が頭の中で抱えている暗黙のこだわりや日々の判断基準を、デジタル上の言葉として整理し直す作業のことです。
多くの人が、AI導入と聞くと「高額な配膳ロボットを導入する」ことや「自動で予約を受け付けるシステムを店舗に組み込む」といった、大がかりな設備投資を想像しがちです。しかし、個人経営や小規模な飲食店にとってのAI導入は、そうしたハードウェアの導入ではありません。日替わりランチの献立を考える作業や、インスタグラムに投稿する写真の紹介文を書く作業、あるいはパートやアルバイトを募集する求人票の文章作成といった、経営者が日々頭を悩ませている細かな作業の「相談相手」としてAIを配置することにあります。
大切なのは、どのツールを使うかという「道具の選択」ではなく、どのような順番で進めるかという「手順」です。多くの店舗が、話題のツールをいきなり使おうとして挫折します。そうではなく、まずは自分自身の頭の中にある言葉を整理することから始めなければなりません。
一人で考え続けた末に、AIを相棒として相談しはじめた。答えを出してもらうのではなく、自分の店だけが持つ強みを一つずつ言語化していった。ランウィズは、その個人的な記録から始まった。
(公式HP「はじめに」より)
このように、AIを導入する最初のステップは、高価なシステムを買い揃えることではなく、自分自身の店舗の価値や、日々の業務で解決したい課題を言葉にすることから始まります。
店舗の強みや課題が曖昧なまま、どれほど優れたAIを導入しても、期待する成果は得られません。なぜなら、AIは自ら考えて新しい価値を生み出す魔法ではないからです。
AIは能力の増幅器です。使う人の業種知識・経験・判断がないと、最大限には使えません。能力ゼロに掛けても、ゼロのままです。
(代表 佐藤の考え)
大口町の飲食店で長年培ってきた常連客との信頼関係、季節の食材を活かした独自の味付け、地域の人々に喜ばれる居心地の良い空間づくり。これらは、その現場で日々汗を流してきた経営者の皆様の中にしか存在しない、貴重な経験と知識です。その「掛け算の元」があるからこそ、AIは強力な補助ツールとして機能します。
では、大口町の飲食店経営者が、今日この瞬間からできる「最初の1歩」とは何でしょうか。 それは、パソコンを開くことでも、新しいアプリをダウンロードすることでもありません。
今日、お店の営業が終わった後、あるいは仕込みの合間の静かな時間に、1冊 of ノートとペンを用意してください。そして、「今週、自分が一番時間を使っている、頭を悩ませている具体的な作業」を1つだけ書き出してみてください。
例えば、以下のような具体的な作業です。
- 週末の限定メニューの、思わず注文したくなるようなネーミング考案
- アルバイトスタッフが急に休んだ際の、グループチャットに送る連絡文面の作成
- 近隣の競合店と比較した際、自店舗が誇れる「看板メニューのこだわり」の言語化
まずはこれらを1つだけ、ノートに書き留めること。これが、AIをあなたの店舗の強力な相棒にするための、重要で、確実な最初の順番です。ご自身の経験と知識を言葉にすることから、大口町の飲食店の新しい可能性を一緒に広げていきましょう。
出典
本文中の数字は、次の公的統計にもとづいています。
- 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)
www.stat.go.jp で見る - 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月(有効回答1,668社)
www.smrj.go.jp の報告書(PDF) - 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)
www.soumu.go.jp で見る