私は現在、一宮からおよそ20km圏の29市町村を回り、さまざまな店舗の皆様と机を並べてAIの導入をお手伝いしています。その中で、江南市にもよく足を運びます。
総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)によると、江南市の事業所数は2,770にのぼります。この地域を支える多くの事業所の中には、地域の人々に愛される飲食店が数多く含まれています。
日々、仕込みに追われ、接客をこなし、閉店後には帳簿をつけ、明日の仕入れを考える。そんな息つく暇もない日々を送る飲食店の経営者の方々から、「AIなんて、うちのような小さな店には関係ない」「日々の業務で手一杯で、新しいことを学ぶ余裕がない」という声を直接伺う機会が多々あります。
実際、世の中の動きはどうなっているのでしょうか。
中小企業基盤整備機構が公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%(全社的導入3.6%、一部業務での導入16.8%)にとどまっています。一方で、「導入予定はない」と答えた割合は61.0%に達しています。
さらに、同調査において、AIの導入に踏み切れない理由として「現状で満足しており必要性を感じない」と答えた割合は、導入予定なし層で27.7%、検討中層で4.0%となっています。
この数字を見て、私は深く共感します。日々の営業がなんとか回っている中で、わざわざ得体の知れない新しい仕組みを取り入れる必要性を感じないのは、経営者として極めて自然な判断です。
しかし、その一方で「何かを変えなければいけない」と薄々感じている方も少なくありません。総務省「令和7年版 情報通信白書」(図表I-1-2-15・日本 n=515)によると、「効果的な活用方法がわからない」と答えた割合は、米国が9.7%であるのに対し、日本は30.1%にのぼります。
つまり、多くの経営者が「何か役に立つかもしれないが、具体的にどう使えばいいのか見当がつかない」という霧の中にいるのです。
特に、売上や集客に行き詰まりを感じたとき、私たちは一人で悩み、答えのない問いを頭の中で繰り返しがちです。
春日井で6年、カーリースをやってきた。ある時期、自分の店で集客が止まった。広告費を倍、3倍、5倍にしても、お客様は増えなかった。「やり方が悪いのか、商品が悪いのか」を一人で考え続けた。
(公式HP「はじめに」より)
この「一人で考え続ける」という孤独な時間は、飲食店の経営者にとっても身に覚えがあるのではないでしょうか。今週のランチメニューの構成、新しく始めたテイクアウトの告知文、値上げを知らせるPOPの文面。これらを一人で机に向かい、あるいは厨房で手を動かしながら考え続けるのは、精神的にも大きな負担です。
そこで「AIを使えば解決するのでは」と、話題のツールをスマートフォンに入れてみる方もいます。しかし、多くの場合、「うまく使えなかった」と諦めてしまいます。なぜなら、道具を使う「順番」が違っているからです。
飲食店におけるAI導入の最初の一歩とは
飲食店におけるAI導入の最初の一歩とは、新しい道具の使い方を覚えることではなく、自分が毎日行っている「言葉にする作業」を書き出すことです。
多くの人は、まず「ChatGPTで何ができるか」を調べようとします。しかし、それでは順番が逆です。大切なのは、道具の機能を知ることではなく、自分が日々の業務で「何を言葉にしようとして苦労しているか」を自覚することです。
AIは能力の増幅器です。使う人の業種知識・経験・判断がないと、最大限には使えません。能力ゼロに掛けても、ゼロのままです。
(代表 佐藤の考え)
店主としての経験、江南市の地域性への理解、常連客の好みの把握。これらはすべて、あなたの中に蓄積された貴重な「知識や経験」です。これらがない状態で、どれほど優れたAIを起動しても、魅力的なメニューの紹介文や、心に刺さるSNSの投稿は生まれません。
AIは、あなたの頭の中にある「原液」を薄めずに、形を整えたり、異なる表現に変換したりするための道具に過ぎません。だからこそ、最初の1歩は、道具を触ることではなく、自分の頭の中にある「原液」を取り出すことから始まります。
では、今日、この記事を読んだあとにできる具体的なアクションを1つだけ提案します。
それは、「今週、最も作成に時間がかかった、または後回しにしてしまった『文章作成の作業』を1つだけメモ帳に書き出す」ことです。
例えば、以下のような作業です。
- インスタグラムに投稿する、季節限定パスタの紹介文
- 店頭の黒板に書く、本日のおすすめメニューのキャッチコピー
- 新しく入ったアルバイトスタッフに説明するための、開店準備の手順
これを、スマートフォンのメモ機能でも、店の裏紙でも構いません。「今週、これを書くのに15分以上悩んだな」という作業を、ただ1つだけ書き留めてください。
この「書き出す」という作業こそが、AIをあなたの右腕にするための設計図になります。まずは自分の業務を言葉として認識すること。ツールの操作方法を学ぶのは、そのずっと後で構いません。
江南市で地域の人々に美味しい食事を提供し続ける皆様が、日々の「書く苦労」から少しでも解放され、本来の強みである調理や接客に集中できる環境をつくること。そのための最初の一歩を、ぜひ今日、踏み出してみてください。
出典
本文中の数字は、次の公的統計にもとづいています。
- 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)
www.stat.go.jp で見る - 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月(有効回答1,668社)
www.smrj.go.jp の報告書(PDF) - 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)
www.soumu.go.jp で見る