名古屋市は、多くの魅力的な飲食店が軒を連ねる活気ある街です。総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)によると、名古屋市の事業所数は125,476にのぼります。この膨大な事業所数の中には、日々、仕込みや接客、資金繰りに奔走している飲食店の経営者の方々が数多く含まれています。

スマートフォンの画面を開けば「AIで業務が劇的に変わる」「これからの飲食店はAIを活用すべきだ」といった言葉が飛び交っています。しかし、日々の営業で体力を使い果たしている中で、新しい技術の情報を追いかける余裕などないというのが本音ではないでしょうか。

実際のところ、世間の中小企業におけるAIの浸透度合いはどのような状態なのでしょうか。中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月・有効回答1,668社)によると、中小企業のAI導入率は20.4%(全社的3.6%+一部業務16.8%)にとどまり、「導入予定はない」と答えた割合は61.0%に達しています。さらに、導入に踏み切れない理由として「現状で満足しており必要性を感じない」と答えた割合は、導入予定なし層で27.7%、検討中層で4.0%となっています(出典は同上)。

また、総務省「令和7年版 情報通信白書」(図表I-1-2-15・日本 n=515)によると、「効果的な活用方法がわからない」と回答した割合は、日本が30.1%であるのに対し、米国は9.7%となっています。この日米の差からも、多くの日本の経営者が「道具としてのAIをどう使えば自社に利益をもたらすのか」という具体的なイメージを持てずに立ち止まっている姿が浮かび上がります。

私自身も、愛知県北部で店舗を経営する中で、同じような壁にぶち当たり、暗闇の中をもがいていた時期がありました。

春日井で6年、カーリースをやってきた。ある時期、自分の店で集客が止まった。広告費を倍、3倍、5倍にしても、お客様は増えなかった。「やり方が悪いのか、商品が悪いのか」を一人で考え続けた。

(公式HP「はじめに」より)

こうした苦しい経験を経て、私は店舗経営における「問いの立て方」や、課題を整理する「順番」がいかに重要であるかを痛感しました。最新の技術を取り入れる前に、まずは自分自身の手元にある課題を分解しなければ、どんな道具も役に立ちません。

AI導入における「順番の整理」とは

AI導入における「順番の整理」とは、最新のITツールやAIの機能を調べる前に、自店舗のどの業務(例えば、毎日の仕入れ数量の決定、週末のシフト調整、SNSに投稿する新メニューの紹介文作成など)にどれだけの時間を費やしているかを書き出し、課題の優先順位を決める作業のことです。

多くの情報誌やセミナーでは、「どのAIツールを使うべきか」という道具の紹介から入りがちです。しかし、その順番は逆です。店舗の課題が明確になっていない状態で、話題のツールを導入しても、使いこなせずに解約することになりかねません。

AIは能力の増幅器です。使う人の業種知識・経験・判断がないと、最大限には使えません。能力ゼロに掛けても、ゼロのままです。

(代表 佐藤の考え)

もし、経営者であるあなた自身が、日々の仕入れの基準や、メニュー開発のこだわり、顧客対応のルールを言語化できていなければ、AIに何を指示してよいかもわからないはずです。だからこそ、道具に飛びつく前に、まずは自分自身の頭の中にある経験と知識を整理する「順番」が不可欠なのです。

では、名古屋市で日々奮闘する飲食店の経営者が、今日からできる最初の1歩とは何でしょうか。

それは、今夜の営業が終わり、店を閉めた後の静かな時間帯に、ノートを1冊とペンを1本用意することです。パソコンやスマートフォンを開く必要はありません。

ノートを開いたら、あなたが毎日、毎週、毎月おこなっている具体的な作業を、思いつく限りすべて書き出してみてください。

例えば、以下のような作業です。

  • 毎朝の市場や卸業者への食材発注と、その数量の決定
  • アルバイトスタッフのシフト調整と、急な欠勤への連絡対応
  • グルメサイトの店舗情報の更新や、口コミへの返信文作成
  • インスタグラムなどのSNSに投稿する、季節限定メニューの紹介文の執筆
  • 毎日のレジ締めと、売上台帳への記入

書き出したら、それらの作業を「自分が本当にやりたいこと(料理の試作や、常連のお客様との会話など)」と、「本当は誰かに任せたい、あるいは自動化したいこと」の2つに仕分けてみてください。

この「仕分け」が終わったとき、初めてAIという道具が、あなたのどの作業を助けてくれるのかが見えてきます。SNSの紹介文作成に時間がかかっているのなら、文章作成を助けるAIが候補に挙がります。仕入れの数量管理に頭を悩ませているのなら、需要予測をサポートするシステムが視野に入ります。

まずは今夜、ノートに3つの作業を書き出すことから始めてみてください。その小さな「順番の整理」こそが、あなたの店舗の未来を支える確実な土台となります。

出典

本文中の数字は、次の公的統計にもとづいています。

  • 総務省統計局「令和6年経済センサス‐基礎調査」確報(雇用者のいない個人経営の事業所を除く)
    www.stat.go.jp で見る
  • 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」2026年3月(有効回答1,668社)
    www.smrj.go.jp の報告書(PDF)
  • 総務省「令和7年版 情報通信白書」図表I-1-2-15(日本 n=515)
    www.soumu.go.jp で見る